輝く竜の鱗の物語

このツイートから派生したお話です。元ツイートをご覧になってから読んでいただけると幸いです。

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#輝く竜の鱗の物語



竜の鱗を受け取った子供は、濁っていた瞳に虹色の光をたたえ、にこりと微笑みました。竜もまた微笑みます。

「お行きなさい」

竜がそう促すと、子供はこくりと頷き、竜に何度も手を振って走り去っていきました。

その様を見送って、竜はゆっくりと身を伏せ、瞼を下ろしました。

その身からは、少しずつ輝きが失われていきます。永き永き時を歩んできた竜の命が、終わりを迎えようとしているのです。

(ああ)

竜はまどろみのなかで深く息を吐きました。その息に乗って、様々な思い出が──思い出したくもない光景までもが、次々と目の前に浮かんでは消えていきます。

思えば、ヒトを憎んでばかりの日々だったのです。

殻を破ってすぐに愛玩動物としてつまみ上げられ、ヒトの間を転々とした末にもう飼えないと殺されかけ、逃げ出したかと思えば竜狩りの標的にされ、本当に散々な日々でした。逃げ出した先でもたった一頭で、竜らしさなども知らずに生きてきた日々でした。

そんな竜でしたから、あの子供も捨て置くつもりだったのです。飢えて死ねばいいと思っていたのです。

ですのに、何故でしょう。あの子供を見ていると、まだ幼い仔竜だった頃の自分を思い出してしまったのです。そうなると、助けずに捨て置くのも胸が痛み、竜の宝たる、輝く鱗を与えてしまったのです。

馬鹿げた話です。とんでもないお伽噺です。ヒトを憎んだ竜が、死の間際、飢えたヒトの子を憐れんで、輝く鱗を、《竜の加護》を渡すだなんて!

(ああ、でも……)

もはやおぼろげな意識のなかで、竜はくつくつと笑います。

そうなのです。

憎きヒトの子。そのはずだったのに、鱗を渡したそのあとのヒトの子の微笑みに、竜は満足してしまっていたのです。

これではヒトの言う『御人好し』を通り越して愚か者なのでしょうが、竜は満足でした。はじめて、満ち足りた気分でいました。

竜とは、元来、愛情深い種族なのです。

そんなことも忘れていた、と竜は笑いました。

(ああ、どうか、どうか、ヒトの子よ。ワタシに微笑んだヒトの子よ。健やかであれよ)

そんな祈りを最後に、竜の意識はまどろみに溶けていったのでした。


・*・*・*・


遠い遠い昔のこと。

竜に鱗を恵まれて、竜の加護を一身に受け、そうして育った子供がいた。

虹色の光をたたえた瞳。穏やかな笑顔。

うつくしい子供だった。

子供は貧しい氏族の子だった。飢えを竜に救われ、成長し、やがて、国を飢えさせる悪しき王を討ち滅ぼし、王となった。

王となった子供は、国を富ませ、豊かにした。人々は穏やかに過ごし、また、この王をもたらしたという竜に感謝を捧げた。

この国には、時折、竜が姿を見せるという。

その姿に礼を捧げる王の首には、竜の鱗のひとかけらが、あの日と同じ美しさで輝いていたという。


─おわり─





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